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第5回物書き会in山口企画・冬の闇鍋まつりにて
具材「不毛」をテーマにしたssを書いてみる試み
これはわたしが生まれるずっとずっと前、歴史の教科書に書いてあったこと。
天気を操り、永遠の太陽光発電を実現しようとした科学者がいたそうです。
その科学者が撒いた、雲を蹴散らす薬剤によって、
この地球は、真っ黒な雲と、
人すら枯らす高酸度の雨と、
何も生み出さない土に覆われました。
「ヘンリー。どこにいるの?」
お母さんの声が聞こえますが、ヘンリーは無視しました。
いまは人生の一大決心を実現するための、準備の真っ最中なのです。
青い空を見てみたい。
それは、インターネットで見た、大昔の画家による水彩画によって生まれた夢でした。
そんな夢は、大統領だって実現しようがありません。
なにせ、あの黒い雲は飛行機はもちろん宇宙ロケットだって貫けないほど厚いのです。
そこでヘンリーは考えました。
宇宙船の頭から、あの雲を分解する薬品を散布させればいい。
ヘンリーは大まじめですが、お父さんとお母さんは笑っていました。
「そんな宇宙船をどうやって作って飛ばすんだい?」
ヘンリーは考えました。食事中も、お風呂に入るときも、布団に入ってからも夢の中でも考えました。その結果、計算上は、ヘンリーが作ったこの機体で、あの雲を撃ち抜けるという結論に至りました。
あとは、どうやってこの家から機体を飛ばすかです。
黒い雨がやまないとわかったとき、人類は外に出ることをやめました。
ですから、この家にはドアも窓もありません。
ヘンリーが生まれる前から、この家には外につながる出入口がないのです。
そこで、ヘンリーは、自分の部屋にある排気口に目を付けました。
あの排気口のエアフィルターを外せば、外に機体を飛ばすくらいのことはできるはずです。
頑丈だったフィルターの螺子は、もうすぐ……
──これはわたしが生まれるずっとずっと前、歴史の教科書に書いてあったこと。
天気を操り、永遠の太陽光発電を実現しようとした科学者がいたそうです。
その科学者が撒いた、雲を蹴散らす薬剤によって、
この地球は、真っ黒な雲と、
人すら枯らす高酸度の雨と、
何も生み出さない土に覆われました。
それを変えようとした子どもは何人もいます。
ですが、彼らは全員、黒い嵐に飲み込まれて消えてしまいました。
子どもたちは悲しいニュースをテレビで聞き、震え、大人になりました。
わたしもそんな大人のひとり。
親友だったヘンリーを忘れて大人になって、今では子どももできました。
ヘンリーから届いた最後のメール。
助けを求める悲痛な文面。
わたしには何もできませんでした。
そんなことはありっこないのに、
「エミリー、やったよ! 青い空が見えた!」
彼が残した歓喜の声は、
わたしの心に暗雲を残して途絶えました。
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